Shimane, Japan — 2024

美郷町カヌー艇庫

Misato Canoe Boathouse

人口約4,000人の美郷町は、30年前にバリ島マス村へ木彫りのカヌー「ジュクン」を依頼したことを機に、マス村と友好協定を結んでいる。バリの哲学「トリ・ヒタ・カラナ」——人・自然・神の調和——を建築に実践するため、現地で伝統と素材を調査し、遠く離れた文化を地域の風土と重ねた。川と山並みに呼応する大屋根、船底を彷彿させる木トラス。地域の日常と、遠い異文化が静かに溶け合うこの場所は、2030年島根国体のカヌー競技会場であり、観光と文化交流の新たな拠点でもある。

ジュクンを反転させたような艇庫の屋根。

風が凪ぐと、その姿は水面に映り込み、ジュクンのシルエットが浮かび上がる。

船底梁を思わせる木トラス。

カヌーのパドルを彷彿とさせる方杖が、軽やかなリズムを刻む。

船と艇庫は、まるで一つの風景であるかのように、静かに溶け合う。

バリの生活哲学に「トリ・ヒタ・カラナ」がある。人間・自然・神が調和することで皆が幸せに暮らせるという思想である。この考えに共鳴し、日本の美意識である「古美る(ふるびる)」の概念を重ね合わせ、時間とともに美しさを深める建築を志向した。構造には県産杉を用い、屋根はアセチル化木材アコヤで葺き、外部建具にも木を採用するなど、可能な限り自然素材によって構成している。時間の経過とともに屋根はシルバーグレーへと変化し、壁面は落ち着いた色合いへと深まり、周囲の自然環境と同化していく。雨に濡れた屋根は水を含み表情を変え、まるで生き物のように季節や時間の移ろいに応じて表情を変えていく。

この艇庫は「ハレ」と「ケ」(日常と祝祭)という二つの性格を併せ持つ。日常の活動を支えるトレーニングルームは、部材長を4m以下に抑える合理的な構成とし、奥行きを3.64mに設定している。奥行の浅さを逆手にとり、壁一面に鏡を設けることで周囲の風景を映し込み、外部空間と一体化する唯一無二のトレーニング環境を実現した。一方、魔除けの意味を持つバリ島で制作された割れ門、バリのアーティストによる壁画、山々に宿る神々へ捧げる石見神楽やバリの伝統舞踊を披露できる場としても機能する屋外ステージ等の仕掛けがハレの日を彩る装置となる。

完成から一年足らずの間に、カヌー競技の拠点にとどまらず、産業祭やバリフェスティバルの会場としても活用され、さらに昨夏にはインターハイの舞台ともなった。競技施設という枠を超え、地域の観光資源であり文化交流の拠点として新たな価値を生み出している。

Project Information

受  賞 令和8年度 日事連建築賞 小規模建築部門 優秀賞
BIG SEE Architecture Awards 2026 Grand Prix(最優秀賞)
木材活用コンクール 日本木材青壮年団体連合会 会長賞(優秀賞)
日本空間デザイン賞 KUKAN OF THE YEAR(最優秀賞)
ウッドデザイン賞 環境大臣賞(最優秀賞)
所在地 島根県美郷町
竣  工 2024年9月
用  途 スポーツの練習場
敷地面積 5,115㎡
建築面積 1,035㎡
延床面積 945㎡
構  造 木造、地上2階建て
構造設計 山田憲明構造設計事務所
設備設計 総合技研設計
施  工 今井産業 福間工務店特定設工事共同企業体
撮  影 エスエス 秋田広樹、野津写真事務所 野津研一