用 途:スポーツ施設
敷地面積:5,115㎡
建築面積:1,035㎡
延床面積:945㎡
構 造:木造、地上2階建て
構造設計:山田憲明構造設計事務所
設備設計:総合技研設計
施 工:今井産業 福間工務店特定設工事共同企業体
撮 影:エスエス 秋田広樹、野津写真事務所 野津研一
2030年の島根国体に向け、美郷町でカヌー競技場と中高生のカヌー部が利用するための、バリ様式を取り入れたカヌー艇庫を建設する風変わりなプロポーザルが行われた。新たな艇庫は、江の川を競技場とした施設としての役割に加え、観光資源としての可能性も期待されている。美郷町は人口4000人ほどの町で、江の川は谷間の地形を活かして国際大会を開催できる条件を備えており、全国有数の強豪校を擁するカヌー活動が盛んな地域である。美郷町は約30年前にインドネシア・バリ島のマス村へ依頼して木彫りのカヌー「ジュクン」を制作したことをきっかけに交流を始め、日本で唯一バリ島の自治体と友好協定を結んでいる。
提案にあたり、バリ建築の様式を模倣しても表層的な建築にしかならないと判断し、バリの人々に根付いた生活哲学や船の構造を設計に取り入れた。13,000以上の島々から成るインドネシアでは、ジュクンは漁船や移動手段として日常生活の重要な一部となる。先祖の霊を送迎する器としても信じられており、天国に近い屋根に船の形が取り入れらた伝統家屋も多々残っている。この背景を反映し、船のような横長な艇庫の屋根の四隅を伸ばし、ジュクンがひっくり返ったような形の屋根とした。夕暮れ時に風が止むと、川面の波が静まりかえり、景色と共に建物が鏡のように映り込み、ジュクンの姿を川面に浮かび上がらせる。
艇庫正面の階段両脇にはバリの職人によって制作された割れ門が設置され、その先にある艇庫を貫く吹抜けのエントランスを抜けると、そびえる山々を背景にした屋外ステージが出迎える。ステージは山々にすまう神々に捧げる石見神楽やバリの伝統舞踊を披露する場として、江の川を挟んで山々と向き合う。建物内部には船底の梁やカヌーのパドルを彷彿させる架構が掛り、大空間の艇庫が広がる。トレーニングルームは風景に溶け込み、2階の連続水平窓からは川での練習風景を望むことができるなど、自然との共演を意識した構成となっている。
バリの生活哲学に人々、自然、神様が調和することにより、皆が幸せに暮らせるといった「トリ・ヒタ・カラナ」という考えがある。これを実践するために、バリ島で伝統建築や素材の調査を行い、自然素材を多用した唯一無二の公共建築となっている。屋根材にはアセチル化木材を半割にして板葺きにし、外部建具には耐候性の高いニヤトー材を使っている。日本語には古美る(ふるびる)という言葉がある。時の経過とともに、美しくなるという意味だ。自然素材で作られた建物はまさに古美る建物となり、自然・人々・建築が時間と共に調和する。雨が降ると、屋根のアコヤが水を含み全く違った表情を見せる。まるで成長する生き物のように季節や日々の移ろいとともに表情を変える艇庫は愛おしくさえ思える。完成から半年足らずの間に、カヌー競技の用途だけでなく、産業祭やバリフェスティバルの会場としても活用され、多くの人々に愛される施設へと成長を遂げている。
eflects Misato’s rich history in canoeing. Home to a population of approximately 4,000, the town boasts a thriving canoe culture, with some of the nation’s most competitive teams. The Gono River, with its valley landscape, meets the criteria for hosting international canoeing events.
Misato Town’s connection to Bali dates back approximately 30 years, when it commissioned the crafting of a traditional wooden canoe, known as a jukung, from artisans in Mas Village, Bali. This exchange laid the foundation for a formal friendship agreement—making Misato the only municipality in Japan with such a partnership with a Balinese counterpart.
Rather than simply adopting Balinese architectural aesthetics, the proposed design incorporates fundamental principles of Balinese life and boat craftsmanship. In Indonesia—an archipelago comprising over 13,000 islands—the jukung serves as both a vital vessel for fishing and transportation and a symbolic medium for ferrying ancestral spirits. This cultural significance extends to traditional Balinese homes, where roofs often embody the form of boats to symbolize spiritual connection.
Drawing inspiration from these traditions, the new boathouse features an elongated roof with extended corners, mirroring the shape of an upturned jukung. During twilight, when the wind subsides and the river’s surface becomes still, the building’s reflection merges seamlessly with the surrounding landscape, creating the striking illusion of a jukung floating gently upon the water.
Site: Misato, Shimane Prefecture
Use: Sprots Facility
Year: September 2024
Site Area: 5,115㎡
Building Area: 1,035㎡
Floor Area: 945㎡
Structure Type: Timber
Structural Consultant: Yamada Noriaki Structural Design Office
MEP Consultant: Sougou Giken
Construction Contractor: IMAI FUKUMA Specific Construction Joint Venture
Photo: SS Hiroki SS Hiroki Akita, Nozu Photo Studio Kenichi Nozu